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広島大学次期学生情報システムの構築
 −学習支援システム導入のための調査・検討−

広島大学大学院工学研究科 北村 充

- はじめに

広島大学では学生情報システム「もみじ」が稼働している。「もみじ」により様々な事務手続きがインターネットを介して行われるようになった。学生は Web 画面上で履修登録を行うが,入力された履修登録データはその場でデータベースに反映されるため,教員はリアルタイムで履修登録者名簿を入手できる。一方,教員も Web 画面上で成績入力を行い,学生はインターネットを介して自分の成績を閲覧する。また,電子掲示板が導入され,教員や事務からの掲示も全てもみじ上に投稿される。学生は自分自身に投稿された電子掲示を Web 画面にて確認する。しかし,現在の「もみじ」は事務支援を中心としたサービスの提供に留まっているため,教育支援機能を追加した次期システムの構築が計画されている。ここでは次期学生情報システムをキャンパスポータル (大学から学生への情報発信の窓口) と位置づけるために,以下の内容について検討した結果を紹介する。

  • 次期学生情報システムの中核となる学習支援システムの教育効果
  • 次期学生情報システムを学生が利用する条件

- 学習支援システムの教育効果

次期学生情報システムは,学習支援システム,履修指導支援システム,および生活支援システムを検討している。ここでは,著者が担当する 2 年後期科目「システム設計工学」に WebCT を利用して,学習支援システムの有効性について調査・検討した。WebCT とはブリティッシュ・コロンビア大学が構築した Web を用いた学習支援システムであり,様々な e-Learning 機能を有する WebCT の内の小テスト機能 (自動採点機能付き) を利用した確認クイズを各回の授業後に宿題として課した。

中間試験,期末試験後に実施したアンケート調査では,殆どの学生が WebCT の有用性を肯定している。また,WebCT による課題の回答・提出の方が紙面による提出よりも教育効果があると回答した学生は全体の 79% を占めた。アンケートにおける自由回答覧の記述から分かった WebCT の長所は以下の通りである。

  • WebCT の自動採点機能の有効性

    WebCT の自動採点機能を利用することによって,答案提出後,学生の解答が即座に採点・返却される。また,本授業では複数回の受験を許可している。このことにより,答案提出後に復習や見直しの機会が得られ,理解できるまで何度も解くことができ,学生の理解度が向上する。

  • 学生へのサービスの向上

    与えられた期限内であればいつでも提出可能で教員の部屋へ提出に行く手間が省ける点,およびメールや電子掲示板を利用することにより,講義に関する連絡・質問・回答を,円滑かつ容易に行うことができる点が好評であった。

一方,自宅にインターネット環境を所有しない学生からは「大学の計算機室に行かないと利用できない」ことに対する不満が非常に多かった。WebCT 導入による学習支援のメリットは大きいが,学生のインターネット環境に大きく依存している。

授業計画画面のイメージ
図 1 授業計画画面のイメージ
オンラインクイズの有効性
図 2 オンラインクイズの有効性

- 学生がシステムを利用するための要件

前章で述べたように,次期学生情報システムが活用されるためには,学生のインターネット環境が重要となる。そこで,1・2 年生(工学部生 223 名,法学部生 100 名,その他の学部 4 名)を対象としてアンケート調査を実施した。その結果を図 3 〜図 5 に示す。図 3 は学生のパソコンの所有率とネットワーク環境,図 4 はオフラインのパソコンを所有している学生のインターネットへの接続予定,図 5 はパソコンを所持していない学生の購入予定についての結果である。

今回の調査では,工学部生より法学部生の方がパソコンの所有率は高く,文理の間で極端な格差はないと推測される。また,週 3 回以上の講義でインターネットを利用するのであれば,パソコンを購入しインターネットへ接続するという意見が多かった。なお,パソコンの購入やインターネットへの接続を敬遠する理由として,経済的理由および設定が分からないという意見が大半を占めた。

パソコン所有率
図 3 パソコン所有率
インターネット接続予定 (オフライン PC 所有者)
図 4 インターネット接続予定 (オフライン PC 所有者)
パソコン購入予定 (PC 未所有者)
図 5 パソコン購入予定 (PC 未所有者)

- おわりに

ここでは,広島大学における次期情報システムの構築に向けて基礎的な検討を行った。WebCT を利用した授業の復習に対する学生の評価は高く,特に一つの課題に対して複数回の受験を行わせることが有効であることが分かった。一方,自宅にインターネット環境を有していない学生が多く,学習支援システム導入時の大きな阻害要因になると考えられる。しかし,アンケート結果から,インターネットを利用した授業を週 3 回程度実施することにより,多くの学生のインターネット環境導入を促すことができるようである。今後,インターネットの一般家庭 (学生) への普及率は高まると考えられるので,学習支援システムが効果を発揮するためのキーポイントは教員の利用である。そのためには,インターネットを利用した教育の実施に対して大学が組織的に取り組むことが重要になり,広島大学はその方向に進みつつある。

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