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広島大学アジア海上輸送総合プロジェクト研究センター
 発展の著しいアジアの海上輸送に関する国際共同研究を支えるセンター

広島大学大学院工学研究科 小瀬邦治

アジア諸国で急速に発展している工業化は,国際間で,色々な国がその国の条件を生かして分担し,部品を作り,製品を組み立て,輸送し,販売するという幅広い国際的な分業の進展によるものである。例えば,ベトナムのハノイにプリンタ工場がある。マレーシア,タイ等で作られた部品がここで組み立てられ,欧米諸国に輸出されている。これが現代の生産の典型例で,このような国際的な生産と消費のネットワークを支えているのが海上輸送である。沢山の製品が巨大なコンテナ船に乗せられ,工場へと,消費地へと縦横に運ばれているのである。この輸送量は大変に巨大で,例えば日本には石油資源がないから,消費量の殆どを中東諸国から輸入しているが,一隻で 25 万トンの原油を運ぶタンカーが中東から日本まで約 300km 毎に走っているのである。これを陸のタンクローリーで運ぶとすると,日本と中東の間に片側3車線の高速道路があり,10 トン積みのタンク車が時速 100km,車間距離 100m で 365 日 24 時間,休まずに運んでいる勘定になる。今日の国際経済を支えている海上輸送の驚くべき役割が理解される。

発展するアジア諸国では海上輸送の急速な発展があり,日本は世界最大の造船,海運国の一つとして,この海上輸送の発展に寄与しており,広島大学のアジア海上輸送総合プロジェクト研究センターは,社会環境システム専攻の永年のアジア諸国との交流の実績により,日本の大学のアジア海上輸送研究の核として,各国の研究者達と幅広い国際共同研究を展開している。この事業は日本学術振興会の長期的な支援の下で推進されており,日本の東大,阪大,九大等の 13 大学が,インドネシア,タイ,マレーシア,ベトナム,フィリピン等の大学と共同し,アジアの輸送問題をアジアの研究者で研究する場となっている。

現在までに推進している研究課題は多岐に亘っており,その一部を紹介する。

  1. アジアの海事産業と技術移転に関する研究
    写真 1 量産型産業と違い、難しいとされる造船分野で成功裏に技術移転し,年間 7 隻の建造を続ける。(Tsuneishi Heavy Industries (Cebu) Inc.)
    写真 1 量産型産業と違い、難しいとされる造船分野で成功裏に技術移転し,年間 7 隻の建造を続ける。(Tsuneishi Heavy Industries (Cebu) Inc.)
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    写真 2 繁栄するシンガポールに挑戦する,近接したマレーシアの新しいコンテナ港。厳しい国際競争が港湾コストの削減を迫っている。
    写真 2 繁栄するシンガポールに挑戦する,近接したマレーシアの新しいコンテナ港。厳しい国際競争が港湾コストの削減を迫っている。
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    写真 3 ベトナム南部のメコンデルタに建設が検討されている新しいコンテナ港の予定地。将来,国際的な拠点港湾になるかどうかの判断で立地の選択が異なる。
    写真 3 ベトナム南部のメコンデルタに建設が検討されている新しいコンテナ港の予定地。将来,国際的な拠点港湾になるかどうかの判断で立地の選択が異なる。
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    写真 4 インドネシア応用科学技術評価庁の流体工学研究所の最新鋭の海洋水槽。フェリーの転覆試験や河川航行船の模型試験を共同で推進している。
    写真 4 インドネシア応用科学技術評価庁の流体工学研究所の最新鋭の海洋水槽。フェリーの転覆試験や河川航行船の模型試験を共同で推進している。
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    狭く浅い河川を遡上して,ベトナムのホーチミンコンテナ港に到着する外航コンテナ船
    写真 5 狭く浅い河川を遡上して,ベトナムのホーチミンコンテナ港に到着する外航コンテナ船
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    アジアの造船業,海運業,港湾等の産業と技術について国際的な比較研究を行い,各国の産業の特徴,発展段階を明確にし,産業と技術の振興方法を検討している (写真 1)。特に,重点を置いているのは先進国で発展した技術を途上国へ移転する方法で,日本とアジア諸国の産業協力を考える場合に基礎となる。このような産業と技術の研究から,インドネシアの海運振興の方向についての提案が生まれ,インドネシア政府に取り上げられ,国際協力事業団の手で開発調査が推進され,近い将来,海運振興策が実行されると期待される。

  2. アジアの海上輸送ネットワーク解析と施設計画に関する研究

    海上輸送は港湾とそれを結ぶ航路に配置された船舶から成り立つネットワークの機能として実現されるから,このネットワークのモデルを作り,解析すると,輸送需要に応じた港湾や船舶の最適な大きさ等が計算でき,港湾や船舶の企画,設計の拠り所となる。アジアの増大する輸送需要に応えるための港湾開発が国間の競争も絡んで急速に進んでいる。シンガポールは東南アジアの拠点港であるが,マレーシアは近接地にコンテナ港を建設し (写真 2),サバイバルを賭けての競争が展開されている。ベトナムはメコンデルタにコンテナ港の建設を計画しているが (写真 3),アジア物流の中でこの港湾はどんな役割を果たすのだろうか。こうした輸送計画を研究している。

  3. 海上輸送に関連した安全性と環境問題の検討

     フェリーの転覆により数百人の遭難者が出るという悲惨な海難が頻発している。安全規則の整った日本では殆ど聞かない転覆事故がアジア諸国で頻発する背景には,安全規則がないために,本来の設計条件とは違った状態で運航されている現状がある。また,船舶の安全管理も重要で、この実態と改善策についても検討しており、海上輸送に関連した安全の問題について,現地の研究者と協力している (写真 4)。

  4. 河川輸送システム開発

    スマトラやカリマンタンの内陸部で産する豊富な石炭資源を消費地まで運ぶ効率的な手段は河川輸送である。また,流域に豊富な水資源を有するメコン河は近い将来に危惧される食糧危機時の生産基地と期待されるが,農産物等を河川輸送するシステムの開発が必要になる。喫水が浅く,操縦の容易な船の開発や,GPS 等を用いた運航支援システムの整備が必要で,現地の河川の実情にあった河川輸送システムの開発を各国と共同で推進している (写真 5)。

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